派遣スタッフ等に通勤手当を支給しないことが労働契約法20条に反するかが争われた裁判例
両角のコラム
2022.02.23
派遣スタッフ等に通勤手当を支給しないことが労働契約法20条に反するかが争われた裁判例
通勤手当の支給の差異について労契法20条違反の成否が争われた裁判例(大阪地裁令和3年2月25日判決)についてご紹介します。
事案の概要
人材派遣事業等を業とするY社では、雇用契約によって職種を区分し、職種ごとに異なる就業規則を定めていましたが、有期労働契約のうち、派遣スタッフとOSスタッフ(アウトソーシング事業の受託業務に従事する有期労働契約社員)に対しては通勤手当を支給していませんでした。但し、就業場所が遠方となる業務など求人が困難な場合に、時給とは別に通勤交通費が支払われるものもありました。他方、無期労働契約社員、有期労働契約社員のうち派遣スタッフとOSスタッフ以外の職種の者には通勤手当が支給されていました。
通勤手当の支給されている職種はいずれも勤務地の限定がなく、配転命令の対象とされていました。
XはY社に派遣スタッフとして登録し、断続的にY社との間で派遣就労等に係る有期労働契約を締結し、派遣先事業所等において業務に従事していた者ですが、通勤手当が支給されていなかったことから、Y社の無期労働契約社員との間の相違が労働契約法(改正前のもの。以下「労契法」といいます。)20条に反すると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、通勤手当相当額の支払を求めました。
裁判所の判断
裁判所は、通勤手当の趣旨ないし目的について、ⅰ配転命令の対象となる社員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするという趣旨とⅱ配転命令を受けない派遣スタッフ等については魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨を有するものと解されるとしました。
そして、本件相違が不合理か否かについて、以下のとおり、①XとY社の無期労働契約社員との職務内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情から、不合理と認められるものと評価することはできないとしました。
①職務内容について
Xは派遣先においてサービスの加入促進活動・契約獲得業務(チラシのポスティング)の業務に従事していた。他方、Y社の無期労働契約社員は、職務・勤務地限定がなく、業務内容は営業業務(具体的な営業計画を立て、顧客獲得活動、派遣契約の締結、派遣労働者の支援、スタッフ職業務(企画立案・経営判断に必要な情報の取りまとめ等)等労働者派遣事業者たるY社の根幹業務というべきものであった。また、兼業は許可制とされていた。
以上によれば、XとY社の無期労働契約社員との職務内容は大きく異なり、共通するところはなかった。
②職務の内容及び配置の変更の範囲について
派遣スタッフは各契約期間で定められた期間、特定された業務にのみ従事するものであり、配転命令の対象となることも予定されていない。他方、Y社の無期労働契約社員は業務には限定がないため、配転の範囲も全国に及び、将来の幹部候補生として定期的に職種変更があった。
以上によれば、職務の内容及び配置の変更の範囲は大きく異なるものであったというべきである。
③その他の事情について
Xが得ていた時給額はアルバイト・パートの平均時給額よりも相当程度高額であり、その差額はXが通勤に要した交通費を支弁するに不足はないものであった。
コメント
派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は、労働者派遣法により、派遣先の労働者を比較対象として図ることが中心とされており、判決でもその旨触れられています。
本件において、Xは派遣先の労働者との相違ではなく、派遣元の無期労働契約社員との待遇差を問題としましたが、判決では派遣労働者と派遣元との関係についても労契法20条が適用されるとしました。本判決の判断枠組みによれば、手当の趣旨、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲の相違によっては、労契法20条に反する場合もあるといえます。
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