無期転換後の労働条件について正社員との待遇差が問題となった裁判例
両角のコラム
2022.03.02
無期転換後の労働条件について正社員との待遇差が問題となった裁判例
労働契約法(以下「労契法」といいます。)18条により有期労働契約が期限の定めのない労働契約へ転換した後の労働条件について正社員との待遇差が問題となった裁判例(大阪地裁令和2年11月25日判決)についてご紹介します。
事案の概要
労契法18条に基づき有期労働契約から無期労働契約に転換したXが、転換後の労働条件について、雇用当初から無期労働契約を締結している労働者(正社員)に適用される就業規則によるべきであると主張し、正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。
本件訴訟に先立ち、XはY社の正社員就業規則には、無事故手当、作業手当、給食手当等の定めがあるのに対し、契約社員就業規則にはこれらの定めがないことについて、労契法20条(改正前)に違反していると主張し、賃金の支給に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求めました。最高裁は、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当の待遇差は不合理であるとしましたが、住宅手当については将来の転勤・出向の可能性の有無の相違があるため、その待遇差は合理的であるとしました(最高裁平成30年6月1日 ハマキョウレックス事件)。
裁判所の判断
Xは無期転換後に契約社員就業規則を適用することは、正社員より明らかに不利な労働条件を設定するもので、均衡考慮の原則(労契法3条2項)及び信義則(同条4項)に反し、合理性の要件(同法7条)を欠くと主張しました。
しかし、裁判所は、無期転換後のXと正社員との間にも、職務の内容及び配置の変更の範囲に関し、有期の契約社員と正社員との間と同様の違いがあるなかで、無期転換後のXと正社員との労働条件の相違も、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り、労契法7条の合理性を満たすとしました。
【無期転換後のXと正社員との間の及び配置の変更の相違】
Y社において有期の契約社員と正社員とで職務の内容に違いはないものの、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるのに対し、有期の契約社員はそのようなことが予定されていないこと、無期転換の前と後とでXの勤務場所や賃金の定めについて変わるところはないこと、他方でY社が無期転換後のXに正社員と同様の就業場所の変更や出向及び人材登用を予定していると認められないこと
コメント
基本給、賞与その他の待遇について、短時間・有期雇用労働者と正社員の間で不合理な待遇をしてはならないことは、旧労契法20条、パートタイム・有期雇用労働法8条に定められていますが、同条の規制は有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の待遇差についてのものであり、無期雇用の社員間の待遇差については含まれません。本判決では、無期雇用の社員間の待遇差の均衡について、労契法7条の合理性によって判断しています。
職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に違いがない場合、合理性の要件(労契法7条)を欠き、無期転換後を想定した就業規則で定める労働条件が適用されないと判断される可能性もあると考えられます。
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